PERSON

デザイナー鈴木武雄

鈴木武雄

デザイナーは技術屋

T.B)今回武雄さんが新しく手掛ける新しいブランドについて教えていただけますか?

武雄)ブランド名は【DARTREM(ダートレム)】といって、ART(アート)と武装のARMED(アームド)を組み合わせた造語。アートを武装したっていう意味の言葉です。美しく武装するっていう意味のアナグラムになってて、これをもう一回バラバラにするとDREAM(未知なる可能性)っていう言葉が抽出されます。DREAMっていうのは未知なる可能性を表現していきたい。ミリタリーウェアって言っても、ただソルジャー、戦うところだけに絞っていなくて、もう少し幅広くオフィサーや、配給するサプライヤーだったり。それこそ、今回やってるんですけど、ホスピタル。病院の看護士のガウンとか。フランス軍の手術着とかを取り入れたりしてて。そういうユーロ古着は多くて、そこからヒントを得て。でも素材は、未知なる可能性を考えたいんで、結構実験的なものが多いですね。

DARTREM

が無意識に感じている物を意識していく

T.B)カラーとかも意識して、アイテムに対して、見た事ない色で挑戦してみようとかいう案もあったりするんですか?

武雄)えーっと、、、無いですね。黒と白しかないんですよ。最初のシーズンは。それはDARTREMっていう”ブランドコンセプト”を最初のシーズンコンセプトにしたんですよ。そのブランドコンセプトっていうのは【ANTIMATTER(アンチマター)】っていう言葉で。例えば、アンチマターっていうのは白と黒も自分の中ではアンチマターなんですよね。どちらがアンチっていうのは無いんですけど、片方はノーマルで片方はアンチなんですよ。必ず存在するんですよね。どんな物も全てノーマルマターで、それの反物質が必ず存在するって言われてるんですよ。科学では。これは自分の中で対極にあるものだと思っていて。黒だったら白。黒い物ってどんなに薄めていっても白にはならないんですよ。でも色の表現だと0%は白で100%は黒じゃないですか。でも黒の絵の具は薄めても絶対に白にならないんですよ。白を混ぜない限り白に近づかない。でも頭の中の表現では黒と白があるじゃないですか。だから自分というものも自分じゃない物が居るっていう風に昔から考えるから、本で読んだのは、それをドッペルゲンガーに例えてあったり。それと出会う事でちらかが消滅して一つにならなくちゃいけなかったり。実際に反物質っていうものは、よくわからないです誰も。でも必ず自分が今思ってる事っていうのは本当に自分がナチュラルに考えた事じゃないはずだし。誰かの要素入ってるじゃないですか。でも普段なんとなく出てくる口癖とか、その生まれもって出てる物ってきっとあると思うんですよね。そういう風な無意識な物を意識していきたいっていう感覚なんですよね。BACKBONEっていうのは目に見えるコンセプトを持ってるんですよ。説明し易くしています。それが普通だと思うんですよ、ビジネスとして。DARTREMっていうのはBACKBONEでは出来ない事をするっていう意味のアンチマターでもあるんですよね。同じ人間がするけれども、この2つの真逆の物が存在していて。みんなあると思うんですよね。

–哲学的でテクニカルな話しを続ける鈴木武雄氏。僕たちは一言一言漏らさず、武雄氏が発する言葉に集中した・・・

T.B)哲学的な要素が結構強いですね。

武雄)強いですね。自分が違う局面で表現できる事はあるって思ってて。BACKBONEでできない事をしようって事のフィールドでもあるんですけどね。BACKBONEでこれやったらまずいでしょってみんなが思う事があるんですよ。たとえばスカートあったらヤバいと思うんですよね。でもそうじゃないものだったら別にいいだろって思うし。

T.B)BACKBONEとDARTREMは同時進行していかないと成り立たないと言う事ですね。

武雄)そうです、そうです。最初はDRATREMをやるにあたって、BACKBONEのチカラは借りますけど、次のシーズンからは、全く関係無く別々に走っていかなきゃいけないし。BACKBONEがあるからDRATREMが存在できて。コンセプトを設けるのに、毎回気持ちが変わってもしょうがないじゃないですか。だから一番根っこにあるアンチマターっていう気持ちはありますよね。人が無意識に感じてる物を意識していくっていう。例えば一般的にジーンズのポケットにはステッチが2本並んでかかってますよね。みんな昔からそのステッチの間隔を見てるんですよ。それに対して、特殊なデザインって思う人は誰もいないんです。でもこの2本のステッチ間隔が端っこギリギリのコバステッチ+20mm幅だったりとかしたら、凄い所にステッチ入っていますねっていうんですよ。でもステッチの数も入ってる針の数も縫った回数も一緒なんですよ。で、そこにステッチがなかったら、ステッチが無いってことに違和感を感じるんです、みんな。ステッチが入ってないジーパンを見たら。それを綺麗なジーパンですねって表現する人もいると思うんです。スラックスに近づいてくるから。洋服って割と引き算をしていけばフォーマルに近づいてくし、足していけば足していくほどカジュアルに近づいてくるんで。自分は洋服の構造そのものが結構好きなんで、同じ行程を踏んでても、それをデザインに感じるってことは、その人が無意識に見てきたことがベースであって、それをちょっとズラすことで、それがデザインに昇華するんですよね。同じ行動を起こすだけでもそれがデザインかデザインじゃないかってわかるんだと思うんです。それが、しばらくBACKBONEやっていて固まってきた頭を、もう一回無しにして、柔らかくして考えた時に、どう表現出来るのか。だから、袖が3本あったっていいんですよね(笑)。ただ人にわかってもらう為にある程度、ミリタリーっていうツールを使うんです。

T.B)なるほど。着れなくたっていいんですよね。極端な話し。

武雄)極端な話し(笑)そうです(笑)だからシルエットも意識してますね。当たり前なシルエットではなくしたいなっていうのはありますね。本来自分が考えて設計した通りに人は着てくれるわけないじゃないですか。でもそう言う所も逆手に取ったりして、この寸法はここまでいったらどうなるんだっていう、パターンナーの経験があるんですよね。今でも構造を理解する為に型紙を引くっていう事はやっていて。ミシンもたまに踏みますし。理解する為に踏むんです。理解という面では、古い物へのリスペクトは半端じゃなくて、昔の物の作り方とか今でもびっくりしますね。だから、その構造を取り入れる時は、そのまま習うわけじゃなくて、自分なりに噛み砕いて今なりに表現するというか。

T.B)古い物を新しいものに昇華させるという感じですか。

武雄)うん、もっと新しく考えていきたいというか。そういった意味でデザイナーは技術屋だと思うんですよ。絶対アーティストではないです。100%全ての商品を自分で作ってる訳じゃないんですよ。工場が作ってるんで。でも作って欲しい物を工場に頼んで、自分たちに戻ってきて、お客さんに届けるメッセンジャー。だから自分たちは100%以上の気持ちで工場に伝えなければならない。だって、ミシンなんてズレて当然なんです。でも型紙っていうのはズレないじゃないですか。1ミリ以下も引けるんですよ。だからこそ、きっと”ズレるからそこも曖昧で良い”って事はなくて、100%やって工場に行って、工場の職人の癖が入って120%で帰ってきたらラッキーという感覚。でもそういう思いを持って、相手の個性も活かす余白作って出す事もありますけどね。

DARTREM

T.B)そうなんですね。DARTREMでは例えば、どんなギミックが施されてたりするんですか?

武雄)MA-1の袖のポケットって、普通は上に付いてるんですけど、それが下に入ってるように見えるよう、くり抜いてあるんですよ。わざわざくり抜いて中に入れてるんです。凹凸を逆にしてるんです。目の錯覚でも無くて本当に埋め込まれてるんですけど。同じ事しててもそれがデザインだって思えるんですよ。そう言う事が18歳の時に好きだったHelmut Langだったんですよ。日本だとシンプルって事が曖昧で、簡単な物がシンプルって言われ易くて、本当はベーシックだったり、プレーンていう言葉が代替されるべき。でも僕の中ではシンプルってもっと面白くて、複雑な物があった時に、それを凄い研ぎすましていった物がシンプルになるっていう感覚なんです。本来そこに有ったものが無いねって思わせる事がシンプルに近いっていうか。例えばスカジャンでもいいんですけど、スカジャンってこう有るべき物だって皆が思う物があって、本来有るべき物がそこになければ、それがシンプルになるんですよね。ある物を無くす事。だから最初から付けないって考え方では無いんですよ。だからちょっと余韻を残す事も大事だなって思いますよね。刺繍が有るべき所になにかするとか。有るべきものが無いって感じさせられたら、シンプルとしては凄い成立してるとは思いますけどね。

T.B)逆にそれはBACKBONEでは出来ない事、、、?

武雄)ですね(笑)やっぱりリアルクローズだったらポケットは付けないとってなりますからね(笑)DARTREMだったら無くてもいいし。だから裏地も袖だけ付いてるのとかあったりとか。

T.B)じゃあBACKBONEとDARTREMを平行して作ってて、これはやっぱりいらないなって思ったら切り替えて作ったりとかあるんですか?

武雄)それは無いですね。逆に影響されちゃったんですよ。BACKBONEは。DARTREMをやろうって決めて、名前を決めるのに凄い時間がかかったんですけど(笑)

Photographer:Reika Figuigui

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